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移住者交流「朝ごはんの会」

 「大きな会場を借りて、そこにたくさんの人を集めて、立食パーティのような従来の移住者交流会がコロナ禍で開催しずらくなったというのがきっかけでした。今やるならそういう大きな規模のパーティではなくて、もっと少人数で、互いの顔がちゃんと見える距離感で食卓を囲むようなこじんまりとしたかたちでできないかと考えました。そのほうが自然と交流が生まれると思うんですよね。それでスタートしたのが朝ごはんの会です。」

 これまで地域おこし協力隊として3年間働き、任期終了後はまちづくりの会社を興して、シェアオフィスや子ども食堂の運営にも携わってきた前田智子さんが最初にイメージした移住者交流会のかたちだった。

 「市役所のHPや窓口に相談にゆけば、公的なサービスに関しては網羅しているのでほとんど教えてもらえる。でも実際に生活していて不便だなと感じるのは、歯が痛いときにどこの歯医者へ行ったらいいのだろうとか、小さい子どもを連れ行っても遊べる公園がどこにあるかとか、そういった情報ってその人がいるコミュニティで受け取ることしかできないんですよね。」

 朝ごはんの会への参加者の中には、パートナーの転勤で移住してきたばかりという方や、アパート住まいで回覧板が回ってこないので、地域との接点が持ちにくい人たちがいる。生活してゆくための最低限の情報は手に入っても、この地域の事情が反映された、よりよく暮らしてゆくための情報が入ってこない。

 「そういう方々がうちの店に来ては、子どもの通う保育園をどこにしようかとか、家を買いたいと思っているけれど、どうやって土地を探したらいいのか、商店街に店を出したいと思っているんだけど…っていう話をよく聞きますね。」と、朝ごはんの会の運営に携わる室根英之さんも実感しているその1人。

 

 駒ヶ根市は市内の不動産、建設業者などの民間事業者との連携による「信州駒ヶ根暮らし推進協議会」を運営し、移住事業を展開している。移住者交流会の朝ごはんの会は、移住から定住へつなげるための協議会の活動のひとつでもある。

 朝ごはんの会の準備は市の職員も一緒に行う。ふだん市役所職員という立ち位置で市民と接することがほとんどでも、休日にラフな服装で、市民に混ざって同じ目線でざっくばらんな会話ができるのもこの会の魅力。参加者の中には、駒ヶ根市との距離が近くなったという感想を持つ人も少なくない。

 

 この日の朝ごはんの会は、前田さんが運営するシェアハウスのキッチンとリビングを借りて「角煮食堂」さんの出張朝ごはんの会。今回で5回目となる朝ごはんの会は、毎回、朝ごはんを提供してくれる方の人選や開催する場所選びに関しても、駒ヶ根や駒ヶ根近辺に住んでいたり、活動されている人を選んでいる。その理由は、少しでも地域で活動している人の姿が見えるようにして、それをみんなで応援できるようなかたちにつなげたいという想いもあってのこと。和気藹々と食卓を囲む様子は親戚一同が会したようなどこか懐かしい雰囲気がある。

 

 駒ヶ根市が運営している移住の体験住宅に滞在中の移住検討者も朝ごはんの会に参加することが多い。移住を検討されているご夫婦やご家族を囲んで、先輩移住者や地元出身者が親身になって相談にのっている光景も会場のいたるところで見かける。

 移住検討者の相談にのりながら、逆に駒ヶ根のよさを教えてもらったり、外から見た駒ヶ根の魅力に気づかせてもらうこともあるようで、地域住民にとっても新しい発見があり、改めて自分たちの暮らしを見つけめ直すきっかけにもなっている。

 

 朝ごはんの会の参加者は「よりみち談話室」というグループLINEへの参加も可能で、参加者は各々に紹介したいものや人、情報を共有している。朝ごはんの会には駒ヶ根市だけでなく、近隣の市町村に住んでいる人たちも参加しており、市町村の垣根を越えて、程よい距離感が保たれている。

 コロナ禍がきっかけで生まれた朝ごはんの会は今後も継続して行く予定。移住検討者や移住者にとって本当の意味での交流はどうあるべきかを問い続けた姿勢が、少しずつ人と地域、人と人とをつなぎはじめている。

 

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