駒ヶ根市の商工観光課 移住・交流促進室では、窓口での移住相談や移住後のアフターフォロー、市内の空き家物件の掘り起こしと空き家バンクへの登録、そして空き家の情報発信などに取り組んでいます。
今回はその移住・交流促進室に今年度(2023年4月)から着任された松崎しのぶさん(写真左)と1年間移住相談員として業務にあたっていた桑原あゆみさん(写真右)にお話を伺いました。
「駒ヶ根で生まれ育った実感をもって暮らしを伝えてゆく。」
― 松崎さんは生まれも育ちも駒ヶ根市だとお聞きしました。
松崎:生まれてから今までほとんど駒ヶ根で過ごしています。小中高とずっと地元の学校で、中学は合唱部、高校は剣道部のマネージャーでした。大学のときだけ新潟にいて、農学部でお米の遺伝子の研究をしていました。もともと食物に関心があったのもあって、お米と麦の研究をされている先生との出会いもあってお米の研究をすることになりました。
― その後、大学を出て駒ヶ根市役所に就職されるのですか?
松崎:地元がすきだったので田舎には戻ってきたいと思っていました。当時は農業改良普及員という資格があって、それの長野県の資格をとっていたので長野県で就職口を探してました。でも、その当時、就職氷河期で県の職員の採用が全然なくて…。もともと理系で研究をしていたので、あまり営利を追求せずに、自分の専門分野を極めてゆくような仕事をしたいと思って市役所に入りました。
― 一度、進学で県外へ出るとそのまま県外で就職する人も少なくないですが、田舎に帰ってくることに関してはどう考えていましたか?
松崎:田舎がすきだったので戻ってきたいと思っていました。新潟もここよりは都会でしたけどそんなに都会都会してないですし、都会があまりすきじゃなくて田舎がすきなんですよね。
― 新卒で市役所に入ってからはどんな仕事をされていましたか?
松崎:教育委員会で学校関係の仕事になりました。希望は農林課に出したのですが(苦笑)これまでやってきた研究とは全く違う教育畑になりました。でも、まだ若いこともあってなんでもやってゆきたいという思いもありましたし、学校の先生や用務員の方々も仲良くしてくださって、とても楽しかったです。
仕事の内容的には学校の事務のような業務で、学校の電気代を支払うとか、教科書を手配するとか、学校災害保険や教員住宅の手続きとか、教育現場の裏方的な業務を3年担当していました。
次に、保健福祉課(当時)に配属になって1年間働きました。大人の健康診断の通知を出したり、会場を手配したりという仕事でした。その後、部署の中で異動になって、高齢者福祉サービスの仕事をしていました。
産休に入ってから復帰したときは、また子ども課で、今度は乳幼児健診や予防注射の手配をする仕事でした。発達に障害のある子の支援や未熟児で生まれてしまった子の支援などもしてきました。子ども課の中でも異動して、子ども交流センターの業務や幼児虐待防止の業務にも携わりました。
― 子どもたちの教育から大人たちの健康、高齢者の方々のサポートまで幅広く人のライフステージに関わる業務をされていたんですね。とくに印象に残っていることはありますか?
松崎:やっぱり子どもに関わる行政は夢があると思います。子どもたちの将来のことを考えながら仕事をすることは希望があって、すごく前向きになれるので好きですね。自分自身の子育てもしながら、同時並行的にその経験を活かしながらできたのがよかったと思います。経験していることで当事者の想いや考えに共感できたり、逆にこちらの言葉も伝わりやすいこともあったと思うので。
― そして、その子ども課の次が秘書広報室ですね?
松崎:そうですね、秘書広報室に移って約6年間業務に携わりました。秘書広報室の仕事は、ケーブルテレビの対応をしたり、市報をつくったり、市長の秘書など一通り経験しました。どの仕事も楽しかった記憶があります。とくに広報の仕事はいろんな人と話ができるのが楽しかったです。あと、比較的、市役所の仕事でも自由度が高い業務が多くて、決まりに則って仕事をするだけではなくて、自分のやり方次第で色々挑戦できる場所でもありました。それは移住や空き家の今の業務とも共通することかと思います。
― 牛乳パン誕生の動画もつくられていましたよね?
松崎:あ、そうです、そうなんです。商観の小原君と牛乳パン誕生の寸劇をやって(笑)「パンください!」とかいって牛乳パン物語(動画)をつくったんですよ。それは思い出深い仕事のひとつです。
桑原:録画しました、フフフ…
松崎:撮影日の当日、演者で都合が悪くなってしまった方がいて、それで急遽わたしがパンを買いに来る女性の役をやることになるというハプニングもありましたけど(笑)あのときすごく市内の方からも議員さんからも「おもしろかった!」と反響をもらいました。「演技はともかく、おもしろかった」と(苦笑)
「牛乳パン誕生物語はこちら」 https://youtu.be/3Vs1WEF4qIg?si=zjBd_yxs3wP2BYz3
― さまざまな部署でいろんな業務を経験されてきた松崎さんは今年の4月から商工観光課 移住・交流促進室で働くことになりました。2ヶ月経ってみての感想はいかがでしょうか?
松崎:ほんとうによくわからないまま過ぎてしまった2カ月でした。ただ、移住の相談に来てくれる人の移住が決まったり、空き家の売買も成立すると空き家所有者の方もすごく喜んでくださるので、そういうところで成果がはっきりと実感できる仕事なので、いい仕事だな、やりがいのある仕事だなって思ってます。
― 昨今、どこの市町村も移住促進には力を入れている業務ですよね?移住がブームですよね?
松崎:そうですね。そのせいか移住のイベントなどで他の自治体の担当の方に会うと「すごいな、この人は!」と思う人も多いです。たぶん、移住に関連することって、派手にアピールすれば話題にはなりますし、移住のいいところを前面に出したり、移住者数を見せて訴求してゆくやり方もあるんでしょうけど、でも、移住って移住者数を競うものではなくて、まずは駒ヶ根を知ってもらって、それで駒ヶ根を好きになってもらって、駒ヶ根に移住してもらうことが大事で、そういうひとつひとつを丁寧にやって、駒ヶ根のファンを増やせるようにしたいですね。
― 具体的には今後、どのような活動をしてゆく予定でしょうか?
松崎:市としては子育て世代の移住に力を入れていますが、それならもう少し学校とか、子育て関連の情報発信があっていいと思っていて。例えば、今、子どもたちの学校の行事のことをサイトに載せはじめましたけど、そういう学校の様子を映像で発信してみたいです。子育て世代がこの地域で子育てすることをイメージしやすい情報発信をしてゆきたいですね。
ツール的なところでいうとLINEとか若者が情報収集で使っているSNSを使った発信もできたらと思っています。ただ、基本はひとりひとりの相談者さんとの関係を大切にして、しっかりとその人と向き合えるような相談窓口になれたらいいなと考えています。
(この後、すぐに駒ヶ根の公式LINEから移住関連情報が発信できるようになりました。)
「駒ケ根市の公式LINEはこちら」
https://www.city.komagane.nagano.jp/iju_teijusite/shiru/10098.html
「移住するひとも地域のひとも、ひとりひとりにとって移住がかけがえのないものになるまで」
― ここまでは新任の松崎さんにお話を聞いてきましたが、次に、すでにこの1年間、空き家の利活用と移住促進に取り組んできた移住相談員の桑原あゆみさんにお話を伺います。まずは1年間やってみての率直な感想はいかがでしょうか?
桑原:最初は仕事を覚えるので精いっぱいで、最近やっと楽しくなってきましたね(笑)。空き家ひとつとっても空き家に至るまでの経過とか、空き家を相続された方の思いとか、皆さん本当にさまざまなので、それを受け止めながら空き家を利活用できるまでにもってゆく…そこに携われることにおもしろさと楽しみがありますね。
― いろんな人間ドラマがありそうですね。
桑原:そうなんです、ほんとその人それぞれのドラマがあります。今は1年間やってきて、やっと移住された方々との関係性も築けてきました。空き家についてもそうなんですけど、去年、空き家バンクに掲載した物件が成約できたりとか。そう、昨日も1件成約があったんですよ!1年間やってきた成果が少しずつ実を結びつつあります。
― 移住された方との関係性とおっしゃいましたが、移住者の方と移住後も連絡を取り合うことはあるんですね。
桑原:そうそう、先日も移住された方が電話をくれて。駒ヶ根に移住していいところだったから今度親戚にも紹介したいから今の時期ならどこに連れて行ったらいい?とか。
― そんな相談も受けるんですね
桑原:はい、来ました(笑)フフフ。
― それは桑原さんというお人柄もあるんだと思いますね。
松崎:ほんと、いろいろな相談が来ますよね。移住した後も病院を教えてほしいとか。
桑原:そう、病院は一番多い質問ですね。そういうところの情報がまだ整理できていなくて届いていないんだなって思います。でも、そうやって移住された方と会話ができると駒ヶ根でどういう生活をしているかがわかってくるので。すでに移住されている方の生の声は、これから移住を検討されている方にとっても必要な情報になるはずなので、他の相談者さんにも話すようにしています。
― 以前、桑原さんが県の嘱託として働かれていたときとはまた違ったサービスの提供の仕方ですよね?
桑原:そう、今は仕事での喜びの度合いが大きいですね。わたしはもともとパスポートの申請の窓口で働いていたので、毎日人とは接している仕事だったんですけど、それこそ申請、交付という事務的な作業なので、そこにあまり喜びは生まれにくいんですけど、それに比べるとここ(商工観光課 移住・交流促進室)は、人と接することがある意味仕事なので。気を遣うことはありますけど、楽しい仕事です。
― 向いてたってことですかね?
松崎:向いてると思う。あ、わたしが言っちゃった(笑)
桑原:ハハハ、確かに人と話すことは嫌いじゃないですね。この仕事は、この地域に住む人たちの暮らしが見えていて、誰のために仕事をしているのか実感があるのでそれがやりがいになっていると思います。
― 窓口で移住の相談者さんと話すときに心がけていることなどありますか?
桑原:わたしは歳がいってるので、窓口で若い方と話すときに距離感のとり方とか大丈夫かな?って思うときはあります。だから娘や孫の話で接点をつくったりということはしてますね。
あとは、これはどんなことにでもいえるのですが、まずはこちらが心を開く。移住の相談者さんにしても、空き家のオーナーさんにしても、それぞれに思いがあるので、まずは話を聞くことを大事にしています。そこからポイントとなることを拾って、話を広げてゆくみたいなことを意識しています。
― 1年間やってきたことで成果が少しずつ見えてくると同時に、課題としてはどんなことが見えてきましたか?
桑原:1年間やってきたから、やりたいことがいっぱい出てきました。そのひとつとしてはやはり情報発信の仕方。例えば、子育て世代へ向けての情報発信の仕方。駒ヶ根の小学校も地域住民の方々の協力を得てキノコの菌うちをやっていたり、田植えをやっていたり、地元のひとからするとあまりに当たり前になってしまっていることですが、県外から移住を検討されている人たちには珍しいってことが意外とあるんですよね。そのあたりの情報発信がまったくできていなくてもったいないなということはあります。なんかそのあたりのことをわたしは「やりたい!」と思っても情報発信が苦手だし、パソコンの扱いも苦手だったんですけど、今は(隣の松崎さんを見て)言えばやってくれるので!
松崎:ほんとに!?できてるのかな(笑)でも、そういうところは広報にいたときの経験が活きてるのかもしれないですね。
桑原:あとは体感会をやりたくて、空き家巡りとか。それも今年やっと(松崎さんに)計画していただいて実現できたんですけど。今後は市民の方にも参加いただいて、自分の住んでいる地域に移住者を迎え入れるときに温かく迎えてもらう土壌をつくってゆきたいですね。
松崎:大事なことですよね。
桑原:空き家を売りたくない人の理由に「どういう人が来るかわからないから」っていうのが本当に多くて…
松崎:あるあるですね。
桑原:だから地域の人からも移住者の人たちを迎えていただけるような、そういう気持ちになれるような機会をつくってゆきたいです。
<駒ヶ根市の商工観光課 移住・交流促進室>
松崎しのぶ(まつざきしのぶ・写真左)
新卒で駒ヶ根市役所に入職。教育現場の裏方から高齢者の福祉サービスのサポートまで幅広く経験。直近の秘書広報室には6年間勤務。2023年4月より商工観光課 移住・交流促進室 室長。高烏谷山(たかずやさん)から駒ヶ根市一帯を眺めた景色がお気に入りの絶景スポット。ソースカツ丼の名店がひしめく駒ヶ根において、カツ丼はまさかの卵とじカツ丼派!
桑原あゆみ(くわばらあゆみ・写真右)
国や県の嘱託として長く業務に携わる。2022年より商工観光課 移住・交流促進室にて移住相談員として勤務。窓口に来るひとりひとりの相談に親身になって伴走するため、移住後も桑原さんを慕って連絡を取り合う方も多数。おすすめの散歩コースは養命酒の健康の森と大田切のつり橋近辺。カツ丼はここでもまさかの味噌カツ派!