起業支援について
どこで、だれと、なにをするのか―
生き方や働き方が多様化した今、移住に与えられた選択肢はとても増えています。
人生の約3割の時間を費やすといわれる“仕事”に何を求めるのかを考えたときに、「起業する」という選択はもはや当たり前で自然な流れなのかもしれません。実際に移住相談を受けていても、仕事に対して「生活するための手段以上の価値」を求めて起業を考えるケースが明らかに増えています。また人口減少の加速する日本で今後限られたマンパワーを効率的に活用していくためには一人ひとりの“働く質”を高めていくことが必要で、好きなことや特異なことに情熱を注げる起業は社会的にみてもとても大きな価値があると感じています。今回はそんな起業を目指す人たちを陰で支える駒ヶ根商工会議所・経営支援課の梶田さんにお話を伺いました。
梶田さんは長野県の木曽地域生まれ。教員をしていた父親の仕事の関係で幼いころは国内外を転々とし、10歳の時に駒ヶ根へ引っ越してきた。そのあと高校まで駒ヶ根で過ごし、大学への進学を機に県外へ出てそのまま就職した。誰しもそんな時代はあるが、実家を出てから親に心配や迷惑ばかりをかけていたと話す梶田さん。「いつか地元に帰らないと」という思いがあったのと、タイミングよく駒ヶ根商工会議所の求人案内をみかけたのをきっかけに今の仕事へ転職を決め、駒ヶ根へ戻ってきた。学生のときには文化祭の実行委員長を務めていたりと、元々賑やかなこと、仲間とわいわいすることが好きだった性格もあって、「元気がなくなっている駒ヶ根のまちを盛り上げたい!」と面接で語ったそう。
商工会議所は商工業の活力強化と地域経済の活性化を目的とした経済団体である。サラリーマンとして企業勤めしている方にはあまり馴染みがないかもしれが、地域や地元中小企業の健全な発展のためのフォロー的役割を担っている心強い存在だ。
中でも起業支援に関していえば、
・創業計画書の作成補助
・必要資金や売上見込みなど収支計画に関する助言
・銀行との仲介
・空き店舗の紹介
・行政の支援制度の紹介
など今後の事業の道しるべとなる手厚いサポートを行っている。
起業のバックグランドや抱えている課題は人それぞれなので、きめ細やかな対応が求められる。
「まずは直接会って、じっくり話を聞くところから始まります。場合によってはその人の人生まで踏み込まないと分からないこともあるため、親身に寄り添い、その人にあった方法を一つずつ一緒に考えていきます。」
新型コロナ感染症の影響もあって、みんな自分の生き方や身の振り方を考えるようになり、起業の相談や新しいこと始めたい人と口にする人も増えた。今年度も業種、年代はさまざまだが20件ほどの相談があったそうだ。
なんとなく起業について話を聞きたい人もいれば、自分で作りこんだ計画書を握りしめてくる人もいる。具体的なフェーズに入っていくと、商圏人口はどのぐらいなのか、ターゲットはどうやって絞り込むのか、損益分岐点はどこなのか、融資の返済シミュレーションはどうなるのかなど、かなり細かい部分まで一緒に考えたりすることもある。
スピード感も違うので、じっくり時間をかけて慎重に進める人とは、本人の納得がいくまで何度も何度も根気強く対話を重ねる。
「色んな方がいますが、年齢関係なくチャレンジする気持ちは本当に素晴らしいと思いますし、起業の場所として駒ヶ根を選んでくれた人を心から応援したいです」と語る梶田さん。
最近ではケーキ屋さんやマフィン屋さん、建設業、美容室などが商工会議所の支援を受けて実際に創業まで結びついたそうだ。
そして事業立ち上げ後も、
・経理や帳簿に関する助言
・決算や確定申告のサポート
・労働保険事務
・宣伝サポート(SNSの立ち上げ、チラシ作成など)
・資金繰りの相談
・給付金や補助金申請の支援
など経営伴走のためのサポートは多岐に渡る。
「PCが分からないから教えてほしい」、「メニュー表作りたいけど何か良いテンプレート無い?」など、よろず相談窓口的な場所にもなっているという。
「税理士や司法書士が専門医だとすると、商工会議所は町医者のようなものだと思っています。困ったらとりあえず梶田に相談してみよう、そんな存在になれたら良いし、そう思ってもらえることが自分のやりがいでもあります。」
駒ヶ根の人は最初はちょっと控えめなところがあるけれど、新しいものも好きで、口コミで情報を聞くと喜んで足を運んだり応援してくれたりする。
「実際に起業支援した方がご自身で色んなつながりを作って大きく成長されている様子をみると、とても嬉しい気持ちになります。」
生みの親のようなそんな温かさを感じる梶田さん。商工会議所も、地域住民も、こうやっていつでも顔がみえる関係性の人たちに応援してもらえるというのは、ローカルで起業する醍醐味なのかもしれない。
「自分の子ども達の世代が帰ってきてこの町のために頑張りたい、また移住される方がこの町で何かチャレンジしてみたいと思ってもらえる場所であってほしいなと思います。その気持ちを持ってもえるかどうかは自分たちの世代にかかっていると思うので、自分にできることはやってあげたいです。」
ここには何もないとみんな言うけれど、ここにあるものを見つけていくのが町おこし。駒ヶ根出身であることや駒ヶ根で暮らしていることを誇りに思ってほしい。商工会議所という立場ではあるけれど、ビジネスをしている人も普通に暮らしている人もみんなが繋がって元気になっていけばと願っている。
取材を終えたあと、「今さ、ちょっといいんじゃないと思ってることあって。これやってみたいんだよね」と何やら楽し気に話しかけてくる。彼はいつも仕事をしながら、何か地域を賑やかにできることはないかとネタを考えていて、会うたびにその温めたアイデアを語ってくれるのだ。
もしかしたら梶田さん自身が起業家になる日も遠くないのかもしれない…⁉
梶田審 Shin Kajita
駒ヶ根商工会議所 経営支援課
Tel:0265-82-4168(平日8:30~17:15)